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名古屋地方裁判所 昭和39年(ワ)1623号 判決 1965年2月25日

原告

大原威雄

代理人

吉田清

被告

津坂久義

被告

株式会社東洋ローラー工業所

代表者

津坂広一

被告等訴訟代理人

大徳寺和雄

主文

被告等は連帯して原告に対し、金二三〇万八二七九円及びこれに対する昭和三六年一二月四日から右支払ずみに至る迄年五分の割合による金員を支払え。

原告の被告等に対するその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告等の負担とする。

この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、「被告等は、連帯して原告に対し、金二三九万六九四二円及びこれに対する昭和三六年一二月四日から右支払ずみに至る迄年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告等の負担とする」との判決並びに仮執行の宣言を求め、<以下省略>

理由

一、被告津坂が、被告会社の業務のため、その保有にかかる被告車を運転中、本件事故が発生したものであることは、当事者間に争いがない。

二、そこで、先ず右事故発生の原因及び状況について検討する。<証拠>を総合すれば、

(一)  本件事故現場は、一宮市方面(北方)から名古屋市方面(南方)に通ずる国道二二号線上で、稲沢市赤池町三丁目五三九番地先の幅員約一一・六米の舗装された道路上であつて、同所附近から東南方に通ずる幅員約四・五米の非舗装の市道が分れており、右国道の東端と右市道との間には、僅かに土砂が盛り上つて、概ね三角形の空地となつていること。

(二)  被告津坂は、被告車を運転して一宮市方面から名古屋市方面に向つて南進し、本件事故現場に差しかかつたのであるが、その頃小用を催したので、被告車から下車するため、前記市道との交差点附近の空地に、被告車を南方に向け、その右側面を国道の東端に接して、停車させた。

しかして、被告津坂は、停車直後、被告車の右側面を通過する車輛等の有無を確認することなく、突然被告車の右側のドアを開けたため偶々原告車に乗車して、被告車の後方からその右側面である国道の東端を南進してきた原告に対し、右ドアの尖端附近を接触させ、その衝撃によつて、原告をして、原告車諸共その附近に転倒させたことが認められ、<反証排斥>他に右認定を覆すに足る証拠はない。

ところで、上記のような場合においては、自動車運転者たる者は、自車の右側を通過する車輛等のないことを確認したうえで、右ドアを開け、もつて事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるにかかわらず、これを怠り、漫然右側のドアを開けたため、原告に接触させるに至つたものである。従つて、本件事故の発生は、もつぱら被告津坂の過失に基因するものといわなければならない。

三、そうすると、被告津坂は、右の不法行為者として、民法第七〇九条により、被告会社は、被告車の保有者として、自動車損害賠償保障法第三条本文により、それぞれ右事故により生じた損害を賠償すべき義務がある。

四、そこで、次に、右事故によつて生じた損害について検討する。

(一)  得べかりし利益の喪失

<証拠>を総合すると、原告は、本件事故当時、建築金物卸売業を営み、昭和三五年度において、年収金五二万九〇〇〇円を得ていたが、本件事故によつて、頭蓋底骨折、脳内出血、左小指掌関節脱臼等の傷害を受け、事故直後、一宮市所在山下病院に入院し、昭和三七年三月五日迄加療を受け、その後名古屋大学病院及び守山市所在香流病院において治療を受け、その間二回に亘り脳手術を受けたが、全快するに至らず、現在筋肉労働に堪えられないのみか、計算及び商売上の応対等も満足にできない状態にあり、通常人に比して労働能力が大幅に減少し、右の状態は前記治療の経過、現在の身心の状況からみて、将来も改善される見込みが存しないこと、原告は本件事故当時は、満五二才の健康な男子であつて、恐らく爾後六二才迄の一〇年間は稼働可能であることが推認できること、前記の身体の障害の程度からみると、原告の労働力の減損度は、障害前における労働力の五割以上であると想定されること、したがつて、本件事故以降は、通常得らるべき収入の五割を下らない額の収入の減損をきたしたものと考えられること、以上の事実が認められ、他に右認定に反する証拠はない。

よつて、昭和三六年一二月四日以降一〇年間における、本件事故前の原告の通常の収入と認められる前記年収金五二万九〇〇〇円の五割について、民法所定の年五分の割合による中間利息をホフマン式計算法に基いて控除すると、原告の主張する金一七六万一五七〇円を上廻る額となることは、計算上明らかであり、右は原告が本件事故によつて喪失した得べかりし利益である。

(二)  治療費

<証拠>を総合すると、原告は前記負傷のための治療費として、前記山下病院、香流病院、名古屋大学病院に対し、合計金一六万七四六九円を支出したことが認められる。

(三)  附添看護婦料その他雑費

<証拠>を総合すると、原告は、前記負傷により、前記山下病院における附添看護婦料金六万八〇五五円、入院中の薪炭代金四八六〇円、氷代金四〇五〇円、氷枕、クレゾール、ベンジング代金二一二五円、診断書料金一五〇円、以上合計金七万九二四〇円を支出したことが認められる。

なお、原告は、本件事故により、タクシー代、定期乗車券代、医師看護婦に対する礼金その他として、金八万三三九六円支出した旨主張しているが、原告において右金員を支出したことについて、何等の立証もしないので、これを認容することはできない。

(四)  慰藉料

<証拠>を総合すると、原告は、二四才の頃から建築金物卸業を営み、漸く右営業も軌道に乗り、一家の安定を得た矢先、本件事故に遭遇し、前示の如き傷害を受けたこと、一方被告等は、本件事故後一ケ月位の間は、原告を看護したり、或は見舞つたけれども、その後は、何等の慰藉の手段を講ずることなく、示談交渉も打切り、原告の窮状を顧みないことが認められ、これらの事実と、前示認定の本件事故の態様、原告の傷害の部位程度、労働能力の減少、その他一切の事情を総合勘案するときは、原告の精神的肉体的苦痛に対する慰藉料は、原告が本訴において請求する金三〇万円を下らない額と認めるのを相当する。

五、以上の次第で、原告の被告等に対する本訴請求は、被告等に対し、連帯して金二三〇万八二七九円及びこれに対する本件不法行為の日である昭和三六年一二月四日から右支払ずみに至る迄年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において、正当として認容し、その余は失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条但書、第九三条第一項本文仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。(裁判長裁判官山口正夫 裁判官浪川道男 寺本栄一)

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